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読書メモ

2019年3月15日 (金)

『象の消えた動物園』  鶴見俊輔  編集工房ノア 2011.08

 村上春樹に2005年刊行の、『象の消滅』という短編集がある。あまりにも似た題なのが気になった。似ていたのは偶然ではないのがすぐにわかった。鶴見が意識してつけた題なのである。二人に交流はなかったようだが、鶴見は村上のサリン事件のルポ(「約束された場所で」)を高く評価していた。鶴見の場合の「象の消滅」とは、大東亜戦争の記憶を意味するのが、読んでいるうちにわかってきた。

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この本の題は、村上さんの短編から拝借した。この短編集も、すぐに理解したわけではない。かなりながいあいだ、この小説の記憶が私の心にとどまって、そういうことかという理解にかわった。そこから自分なりの同時代への見方が生じた。それにつれて、他の同時代への道すじも出てきた

 この本は2005年から2011年にかけて、つまり83歳から89歳の間に書かれた短い文章を集めたものである。体調がよかったとは思えない。

私は、同時代からはなれたくらしをしている。本を次から次へと読むわけではない。しかし、同時代の日本に住んでいるので、いくつかの信号を受けとる

 点滅しながらも確かな信号を出し続けたのだと思った。高齢や孤独をことさら鼓舞することにない文章を読むと、とても慰められます。

2019年2月28日 (木)

『おらおらでひとりいぐも』   若竹千佐子 

 ちょっと前の芥川賞受賞作。主人公は74歳の女性で、夫に死に別れた。著者は1954年生まれだから、65歳になったくらいの人だ。

 玄冬小説の傑作だということなのだが、私にはおもしろくなかった。文章はともかく、主人公の考え方などがごく当たり前のように感じられてしまい、老境テーマにした小説だから仕方ないのだろうけど、あまりにせせこましい世界で、読んでいて楽しくない。ユーモア小説ではないにしても、もう少し書きようがなかったのかなあ。力入りすぎという印象。それともこういう書き方は、私小説の伝統なんだろうか。

 無茶苦茶な比較なんだろうけど、先日kindleで読んだカズオ・イシグロの『日の名残り』『わたしたちが孤児だったころ』のほうが、過去を回想するにしても厚みがあり、ずっとおもしろかった。全然違う本同士なのだから、比べるほうが間違っているんだけど……。

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2019年2月23日 (土)

『思い出袋』   鶴見俊輔  岩波新書

 鶴見俊輔を読み続けている。この新書は、鶴見が80歳から87歳にかけて、岩波書店の「図書」に連載したものを集めた本で、読みやすくてよかった。鶴見の本をたくさん読んでいればいるほど、読んでいなくてもそれなりに、楽しめる内容である。若い時のアメリカでの猛勉強生活、戦争体験、日米交換船での帰国、戦後の広範な活動の思い出などが、ほんの数ページ単位で語られ、重複する内容も多い。たぶん高齢のせいだろう。編集者はわざと手を入れなかったのではないだろうか。とにかく鶴見自身が、70歳ごろから、「もうろく帖」なるものをつけていたらしいから。

 若いときから、気に入った人の著作を、数年単位で読み続けるくせがあって、うちには何組もの個人全集がある。鶴見も全集があるようだが、それはもう買わない。河出文庫からアンソロジーが4冊、出ているのでそれでいいことにするつもりだ。1冊が400ページを超える厚さ、編者の黒川創は鶴見の伝記を書いた人である(写真右端の辞書は、本が倒れないように置いただけです)。

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(内容もさることながら、鶴見俊輔の文章が性に合いました。あのポツポツした、飾り気のない短めの文章と、易しい言葉遣い。「普通の人の哲学」を大切にした人らしいと思います。もちろん、違う本も読んでいますが、それはまた)

2019年2月20日 (水)

『土井善晴の定番料理はこの1冊』   土井善晴  光文社

 久しぶりにビーフシチューを作ろうと思い、この本を引っ張り出した。10年前に校正をした本で、印象がよかったのである。ポテトサラダ、カレー、餃子、エビチリソース、カキフライなどと並んで、ビーフシチューもある。料理の本にしては文字が多く、1つの料理に6ページもさいていて写真もあり、とてもわかりやすい。今見ても、なかなかいい本だと思う。

 「肉を炒めて引き上げ、そこに玉ねぎを炒め粉を入れて、よくよく炒める。バターを落としてからケチャップを入れ、またまたよく炒める。ここまでで味のほとんどが決まってしまうから、頑張るように」などと書いてあるのを読むと、そうか、やってみようと思うのである。出来上がりは、最近にないおいしさ! 

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(仕事での料理本は珍しいです。初校か再校かは忘れました。雰囲気のいい本で、やっていて楽しかった記憶があります)

2019年2月 7日 (木)

『気ぬけごはん』   高山なおみ  暮しの手帖社

 ブログの名前に借用したくらいだから、実際に手にとってみなければ申しわけない。娘のところから借りた(いちおう料理を仕事としている)。黄色い表紙の気抜けた魚の絵は、高橋かおりさんという人が描き、これが何とも言えずおかしい。

 素材を生かした頑張らない料理の紹介で、私なんかずっとそうだから、すぐに共感した。ただ私の料理には、姑から教わった江戸下町風が混じっているが、高山さんは私より一回り若く、その分、モダンで国際的である。たとえば何となく元気が出ない日は、私なら野菜とちりめんじゃこ入りのおじやを作るが、高山さんはハムを入れたオレキエッテとキャベツのスープパスタ。試してみようかな。オレキエッテ、うちにあったかしら???

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2019年2月 3日 (日)

春の思い出

〈・・・・・・・
 生れから過したたくさんの春の
やさしいとりどりの思ひ出がよみがえつて来る。
早く死んだ昔の人が
世にくたびれた私にいたはりの声をかけてくれる。
しづかにあけてゆく空色の中に
オレンジジユースがそそがれる
。〉 永瀬清子「早春」から

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 今日は節分。雑誌(「暮しの手帖」98号)に出ていた永瀬清子の詩が懐かしくて。また読んでみようかな。1995年2月、89歳で亡くなっていたんだ・・・。


2019年1月24日 (木)

『期待と回想』   鶴見俊輔  朝日文庫

 机の上に自立するほど分厚い文庫本で、今は図書館か中古書店でしか見られない。後書きは1997年だから鶴見75歳のとき、たぶん70代前半のときに作られた本で、帯には「未来は穏やかな勇気に宿っている」「対話による思索的自伝とある。70代前半では、今の私と同じだなあ。恐るべき記憶力で、前半はアメリカ哲学の話が多く、読みやすくなかったが、中ごろに転向問題が出てきてから、がぜんおもしろくなった。

無害な人間でありたいという隅っこの思想だから(中略)自分の考えをつくりたいとは思っていたが、人に影響を与えることは考えない

占領軍の将校が英語でペラペラしゃべって、自分が「イエス、イエス」という役割をつとめたくなかった。英語はできるけど、できないようにして生きたい

日本の外には出ないけれど、自分で考えて、決して「土人」なんて言葉は使わない人がいますよ。その心の用意がある人は「国際人」なんです

 鶴見は日本では小学校しか出ていない。15歳で親に渡米させられ、戦時下にハーヴァード大学を卒業して、日米交換船で日本に帰ってきたとき、まだ20歳だった。1949年に京都大学助教授になるとき、この学歴のなさが問題になったらしい。帰国してしばらくは英語で考え、日本語を模索していたそうで、日本語の文章はのちに自分で身につけたとか。どのようにして、意識的に日本語を取り戻したのか、私はとても興味がある。

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この太った文庫は、夫の本箱から。昨年末に出た伝記のほうは今、夫の机に行っています。うちは夫婦して海外に行ったことがなく、つねづね国際人ではないねえと、よく笑いあっています。2人とも持病がありますから、もういいのですが

追記---高橋源一郎のレビューに、こんなのがある。
 「うまく書けないと思うと手に取ることにしている本が何冊かある。そして、適当にどこかの頁を開き、読む。数頁で十分だ。一頁もいらない時もある。すると、狂っていた「調子」が戻り、書くことができるようになる。わたしにとって、鶴見さんの本がそんな存在だ
 なるほどなあ。ちなみに高橋氏は、机で本を読み、書き込んだりメモをとったりするそうだ。私は元気になってから、寝ながらは読まないけど、座椅子にすわってダラダラしながらは、いつものことで・・・・・・。

2019年1月20日 (日)

『卵ドリル』   松浦達也  マガジンハウス

 卵料理専門の本。副題が「おうちの卵料理が見違える!」。私は卵が好きなのです。
 ずっと以前、姑が一緒だったころは、姑が鶏と卵が嫌いで、あまり食べられなかった。何でも大正の昔、家の近所に養鶏場があったらしい。下町の住宅街だったけれど。きっとうるさかったり臭かったりしたのだと思う。

 卵の食品としての特徴が、かなり科学的に書かれていて、ゆで卵や目玉焼きだけでも何種類もレシピがあり、参考になった。卵好きとしては写真も楽しかった。ムックのような大きな本でないところもいい。

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 今日は大寒。「寒卵」はこの時期の季語。

寒玉子一つびとつのいとしさよ〉   久保田万太郎

いのち一つわが掌に寒玉子〉    高橋淡路女

2019年1月11日 (金)

Kindle

 本が増殖するのを防ぐために、アプリのkindleを導入、1週間ほどたった。最近は紙の本と同時に電子版も刊行されることが増えて、読みたい本が出てきたせいもある。大きな出版社のホームページには、必ず電子版の広告が載っている。値段は紙の本よりほんの少し安いだけで、同じものも多く、費用の節約だけを考えると、必ずしも向いていないけれど、スペースの節約に大きな効果があるのは確か。

 iPadでkindle本のストアに行ってみると、びっくりするほどいろいろある。例えば須賀敦子の文庫本が、定価の数割引きであったりして、中古本と違い汚れているようなことはない。先日は中上健次の作品集が0円だった。でも同じ本が今日は2000円を超えている。どういう価格設定なのか、初心者のオバーサンとしてはよくわからない。

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(これはiPad mini、手前はパソコン用のマウス.。本文はふつうに縦組み、字の大きさも調節できます。これからタブレットを買うなら、そしてAmazonのIDを持っているなら、Kindleがいいかもしれません)

2019年1月 3日 (木)

今年もよろしくお願いします

 年賀状は喪中のため、どなたにも出さなかった。料理だけ熱心に作ったお正月の三が日が、もうじき暮れようとしている。
 そんなわけで、めでたいお飾りはないのだけれど、この時期によく身に着ける華やかな柄のマフラーを。

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 年末年始の主婦は忙しい。娘たちが来て、作った料理はほぼ完売、全員何だか太ったみたいだけど、痩せるよりいいのです。

 ずっと『鶴見俊輔伝』を読んでいた。とにかく540ページもあるのだ。重すぎて寝ながらは読めない。実はまだ読了していないが、あと数十ページである。じつにおもしろくて、ほかのことができないほどである。
 戦後最大の哲学者なのだと思った。たぶんもうこういう人は出ないだろう。べ平連などでも有名な人だが、サヨク的な進歩思想から、本質は遠かったように感じる。アメリカで教育を受けたが、自分の国に自分の言葉で、自前の哲学が育つのを強く願い、心身ともに尽力し続けた。

 その鶴見は93歳まで生きるが、70を過ぎてからは病気に悩まされることが多くなっている。晩年につけていた「もうろく帖」には、大腸癌手術後の1994年10月のところに、

今ここにいる。ほかに何をのぞもうか

 こういうのを読むのは切ない。もっとも鶴見はこの後、20年を生きるが。

 戦後すぐに「思想の科学」を創刊し、50年後に自ら終刊。退屈を知らない人だったそうである。こうした伝記を今、出してくれた著者に感謝したい。

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