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2015年12月12日 (土)

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』  村上春樹 文春文庫

 『ノルウェイの森』のバージョン違いのような感じで、現実離れをした話はほとんど出てこない、リアルな小説だと思った。表面は「多崎つくる」青年の成長譚のようになっているが、青春小説にしては会話がひどく不自然で論理的すぎる。ストーリーを楽しもうとする読者には、きっと不評に違いない。筋だけたどれば結論さえ曖昧で、くだらない小説だと思う読者が多いのも、容易に想像できる(amazonのこの本についてのレビューのレベルが低いという意見には、残念ながら賛成である)。
 村上自身は自分の小説を「寓話」だと言っている。もしそうなら「つくる」の過去探しは、ある種の歴史修整主義への揶揄のようにも読めるし、過去が判明したあとのストーリーに、大震災と原発事故以後の日本でどう生きるか、村上のメッセージを感じるのは、私だけではないだろう。おそらく「個人に返り、生きる基本に返れ」というような・・・。それを声高に語らないのが村上らしい。この小説にも震災のことはちらっと出てくるが、彼はたぶん3.11後の日本の変容を語る長編を、準備しているのではないだろうか。今までも時勢を無視する作家ではなかったから。楽しみに待とう。

あなたは一人の自立したプロフェッショナルとして、過去と正面から向き合わなくてはいけない。自分が見たいものを見るのではなく、見なくてはならないものを見るのよ。そうしないとあなたはその重い荷物を抱えたまま、これから先の人生を送ることになる

それは正しい胸の痛みであり、正しい息苦しさだった。それは彼がしっかり感じなくてはならないものなのだ

P1050474
(文庫になったので。村上の熱心な読者ではなく、久しぶりです。楽しい読書でした)

 

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